伊勢谷友介監督が『セイジ 陸の魚』に込めた未来への思い
俳優、映画監督、そして起業家(リバースプロジェクト代表)。様々な顔を併せ持つ才人・伊勢谷友介が、『カクト』(03)以来、8年ぶりとなる新作『セイジ 陸の魚』を撮り上げた。自身にとって2作目となる本作で、伊勢谷友介監督が見つめた先にあるものは何だったのか? 撮影時のエピソードを交えながら、じっくりと話を聞いた。
辻内智孝によるベストセラー小説を基に、構想5年、脚本は30稿以上のブラッシュアップを重ねたという本作。伊勢谷は「原作に描かれている人間どうしの係わり合いや自然との付き合い方といった内包しているテーマは、普段、僕自身が重要視していることと重なっていたため、非常に魅力的な作品だと思いました」と振り返る。
学生最後の夏休みに自由気ままな自転車旅行に出かけた“僕”(森山未來)は、山道で軽トラックと衝突し、ドライブインHOUSE475へと運ばれ手当てを受ける。そこで雇われ店主のセイジ(西島秀俊)と出会った“僕”は、ひょんなことからアルバイトをすることとなる。
劇中で観客の目線を担う“僕”を演じた森山未來は、実際にロケ地となった日光まで自転車でやって来た。「危ないから反対したんですけどね。でも監督としては嬉しいですよ。まさか自分から『自転車で来て』とは言えませんから」と笑うと、続けて「ただの傍観者だった“僕”を、映画全体を印象付けるキャラクターにまで昇華させたのは、森山さんの力。彼はすごく賢いし、感受性も、それを動かしていくパワーもある。彼がカチッとぼんやり感を持って実存してくれてたことは大きいです。素晴らしい役者だと思います」と絶賛する。
そんな“僕”に影響を与えるセイジを演じた西島秀俊は、ストイックなまでに役と向き合い撮影に臨んだ。「西島さんは、現世で同じ場所にいるのに、少し違う次元に住んでいそうな感覚があるんです。ビジュアル的にあんなに綺麗な姿形をしているのに、どこかズレている。それが役にもプラスになっていて、気負わなくともセイジになっている。だから、(本作で)一番高いハードルでもあったセイジがある行動に出るシーンも、(彼の芝居を見たら)ストンと腑に落ちましたね」。
森山未來と西島秀俊。ふたりの実力派俳優が作品に与える化学反応の結果は映画を見てもらうとして、ここでは伊勢谷監督率いる隊が生み出した奇跡のエピソードを紹介したいと思う。「撮影は、どしゃぶりの雨で始まったんですよ。森山さん演じる“僕”が、自転車で雨の中を走るシーンは本物の雨の中で撮影しているんですけど、手前では水しぶきが上がって、カメラはしかめっ面をする“僕”を映し出し、その背後にザーっと降り続ける雨。撮影初日が雨でなければ生まれなかったシーンです。実際、天気は敵だったのか味方だったのかわからないけど、(悪天候を)隊が受け入れたことで生まれた奇跡は確かにあった。撮影直前に霧が晴れたり、偶然吹いた風が登場人物の心情に重なったり、ここでは言い尽くせないほど想像以上のものが生まれました」。
監督の醍醐味を本作で味わった伊勢谷だが「怖さもある」という。「どうとらえるかだと思うんです。物事の事象を受け止めて、どう発信していくか。たとえば、撮影初日の雨を撮らないという選択もありました。そしたら、ここまでは追求できなかったでしょうね」。それは『セイジ 陸の魚』をきっかけに生まれた未来の生活に必要な新たなビジネスモデルを創造する『リバースプロジェクト』の立ち上げにも通ずる。
「原作を読んだ時、『人が人のためにできること』という内包的なテーマには共感できたけど、セイジの(アクションを起こさない)行動が理解できませんでした。この企画はいわばアンチセイジから始まっているんです。映画に込めたメッセージを実際の行動に移したのが『リバースプロジェクト』。描いた理想をやり続ける努力をしていれば、いつかきっとものすごいパワーになる。声を上げたり願うだけでは駄目。今、必要なのは“祈り”ではなく“アクション”なんです」。
そう語る伊勢谷の見つめる先にあるものはとてつもなく大きい。「今は、インターネットを介して、知や意見を結集させることで全体の方向性を作っていくことが可能な時代。そうすれば市民レベルも向上するし、新しい形の未来を作ることもできる」。そう語る彼の視線の先には子供たちがいる。「この現実を見たら動かざるを得ないはずなんです」と、強い眼差しで語った伊勢谷友介監督の挑戦はまだ始まったばかり。まずは『セイジ 陸の魚』を見て、その熱い思いを受け止めてほしい。【取材・文/大西愛】
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